留学生×学部学生 家から話す学芸大 インタビュー3

私たちは谷川さんのことをツイッターで知りました。谷川さんのツイッターでは、きれいに描かれている「グラフィックレコーディング」の作品がたくさん上げられて、描き方や、色使いがとても魅力的で見惚れてしまいました。それで、谷川さんが描く「グラフィックレコーディング」っていうものに興味を持ちました。絵が素敵なだけでなく、興味深い新しい技術を使っていると思い、もっと詳しく話を聞かせてもらいたいと決め、連絡しました。 

谷川 潤さん
東京学芸大学 連合学校教育学研究科博士課程 芸術系教育講座 博士1年。配置大学は埼玉大学であり、学部と修士課程は埼玉大学の美術科で修めている。専門は描画表現と文字を書く表現を組み合わせた画文一体の表現を、教育現場でどう活用していくかということである。 

聞き手
西村 東京学芸大学の2年生
モン 東京学芸大学にタイから留学している交換留学生4年
李 東京学芸大学の4年生

文字と絵を組み合わせ記録

谷川さんはグラフィックレコーディングとは文字と絵を合わせて記録を取ることだと話してくれました。 

谷川さん:文章って記録取っていても見返さないですよね。ワードとかにレポートとかするじゃないですか。レポートを描いても見返さないから何やったっけってなっちゃうんですよ。でもグラフィックレコーディングっていう人に見せる形とか意識して描いたもの、作ったものに関しては何回も何回も人に見せるから内容がすごく自分の中に入ってくるんですよね。 

谷川さん:また、記憶に残っていることを反復するっていうのは、記憶を定着させるのにすごく大事だっていう定説があったりしますね。見る人も繰り返して見るときに記憶に残ると思います。 

文字と絵を教育現場に

谷川さんは大学院での研究において、次の2つを全体の主軸に置いていると言います。 


谷川さん:今主軸にしようとしているのは、グラフィックシラバスというものです。アンケートでグラフィックシラバスがあった影響で、親子で作品について話す時間が増えたか、子どもが授業にイメージを持って、アイデアを膨らませた上で参加できたかなどの影響を調べることが1つです。 

谷川さん:あと子どもが絵と字を使うと、どう学習に影響があるか、自分のやりたいことを明確にするために、絵と字の両方が使えるようになると、どうなるかを調べようと思っています。


つまり、グラフィックシラバスを例に挙げるように、先生が文字と絵を使うと、どう学習に影響するのかを調べるのが1つの主軸であり、子どもが文字と絵を使うと、どう学習に影響するのかを調べるのがもう1つの主軸になっています。 

そして谷川さんがこれらを研究しようと思ったのは、塾のアルバイトで幾度も耳にした子どもたちのある言葉がきっかけでした。 


谷川さん:「僕は塾でバイトをしていたのですけど、その時に『やりたいことがない』という子どもが多くて、ものすごいショックを受けたんです。やりたいことがないと言い切っちゃうのは、なんでだろうって。色々理由はあると思うけど、やっぱりこうしなきゃダメっていう風に言われるのが一番良くないのだろうなって」 


子どもたちの「やりたいことがない」という言葉が谷川さんの心に引っかかり、そしてこの言葉は谷川さんを突き動かし、文字と絵を教育現場に取り入れようと考えることに結びついていきました。 


谷川さん:例えば、「落書きしちゃだめだよ、文字で書かなきゃ」ということじゃなくて、「絵を描くということは、絵を描きたいという衝動があるんだね」と。どっかで、欲求があるから落書きをするわけであって、「それを落書きじゃなくて、情報を取りいれることが出来るんだよ、そういう風に活用ができるんだよ」という道筋を見せてあげれば、落書きというものには繋がらないんです。」

李:「自分も小学生の時、ノートに落書きをよくしていたなって思って。それを授業の記録とかに取り入れられたら、きっともっと、ノートを取るのが楽しくなったのかなって思いました」 

谷川さん:「例えば、僕はバスケをやっていたのですけど、シュートの打ち方、手首の向き、ひじの位置とか、どこにあったらいいかを考える時に絵を描いていたから、すごく役に立っていたし、コートの上でどういう風に動くか、フォーメンションを覚えるのにも絵は役に立っていたんです。絵を描くことにはいろんな意味があるのだということを伝えたいです。


谷川さんのバスケットボールの経験に見られるように、絵を描きたい衝動を閉じ込めるのではなく、文字と絵を組み合わせることで、多角的な視点に立った理解が可能になることがあります。このように、谷川さんは絵を描くことには色々な意味があることを伝えたいと思っています。 

練習が一番の近道 

 グラフィックレコーディングについて丁寧に説明していただいた後、今度は谷川さんのグラフィックレコーディングを始めたきっかけを尋ねてみました。 


谷川さん: きっかけは僕が学部3年生の時の12月くらいに東京学芸大学の図書館のラーニングコモンズで学芸大の学部生、4年生の方が主催でグラフィックレコーディングを紹介するというイベントをやっていたときですね。元々僕は背景にあるような「たにじゅん日記」という日記を書いていまして、僕が見つけた素敵なお店とか素敵な人との出会いを文字と絵で記録していこうというのをやっていました。 


と谷川さんは話しながら、昔描いていた様々な絵を見せてくれました。 

谷川さん:でも元々グラフィックレコーディングをやっていたわけでも、知っていたわけでもないんですよ。当時、博士課程にいた先輩に学芸大でこういうのやっているんだよっていうのを教えてもらって、それでグラフィックレコーディングっていうものを知ったんです。実際にグラフィックレコーディングを始めたのは大学院の修士に入ってからの話でした。コロナ禍になってオンラインでZoomを使ってワークショップやイベントをやるようになっていました。その時に美術教育の教員の組合がオンラインイベントをやることになって参加させてもらって、その時に「あっ、やってみよう」ってなりました。 

谷川さん:あと、iPadを修士1年の四月に買っていたのでちょっと始めてみようと思ったのがきっかけですね。 


話を聞いてみたところ、谷川さんはグラフィックレコーディングをやる前まではアナログで描いていましたが、グラフィックレコーディング始めた以来、iPadで描くようになったそうです。それから、谷川さんにiPadで落書きしてもらいました。なんと短時間でとても可愛らしい絵が出来上がりました。 


谷川さん:やっぱり練習が一番の近道ですね。この男の子ってのが描ければ、女の子も描けるみたいな感じで、パーツを変えれば、すぐ描けるみたいな。共通しているパーツがあるものはすぐ描けちゃうから、どれだけ幅広く練習しとくかみたいなのをやっとくとすぐパーツを選択するっていう、自分ルールを作ったら早いのかな。鼻はこう描きますみたいなのを決めておけばすぐ描けちゃうから、自分ルールを決めとくっていうのは結構大事かもしれないですね。 

谷川さん:いくら丁寧に描いても、話の内容が網羅されていないと、時間がもったいないていうか、話を聞いていないっていうことになっちゃうから、話を聞きながら描くっていうことを考えて、やっぱり気にせず描くっていう、決めつけて描いちゃう、固めて描いちゃうのが大事ですね。 

地域と学校の隔たりを失くしたい 

最後に谷川さんに、将来の姿について尋ねた所、谷川さんは笑って「将来的な話をすると、僕はもう遊んで暮らしたい」と、楽しそうに答えました。もちろん、その場にいる全員が“遊んで暮らしたい”という言葉に大いに共感を示しました。谷川さんは続けて、地域とのつながりが薄く、社会と分断されている今の学校の在り方について、懸念を抱えていると話しました。 


谷川さん:地域の人と関わるのに、美術とか図工は、人に見せるもので、一緒に作ることが出来るものなので、それを主軸にすればどんどん周りの人と繋がっていけるんじゃないかなと考えています。


大学の教員になり、人を巻き込むことが出来る図工・美術教育を通して、社会と分離してしまった今の学校を、より地域に開かれた学校にしたいのだと言います。 

さらに話を続けていく中で、こんな話もしました。 


谷川さん:学校というものをもっと楽しい場所にしたいなってすごく考えています。そのために、絵を描くっていうことって結構使えるんじゃないかな 


なるほど、谷川さんにとって“楽しい学校をつくる”ことこそが、“遊んで暮らす”ことにつながるのだと、その言葉の本当の意味を理解出来たような気持ちになりました。 

そして谷川さんは、絵を描くことを通して学校を楽しいものにするために、埼玉大学の教授と共に、今こんな取り組みをしています。 


これは、町の美術室や図工室、工場や工房といったところで、物を作っている人たちと、彼らが仕事部屋にしている場所についてインタビューし、その内容をグラフィックレコーディングとラジオで紹介しようとするプロジェクトです。このように、普段は学校と関りの薄い地域の人達の仕事について、グラフィックレコーディングとラジオの形式を用いて紹介することで、学校の先生はいつでも・どこでも、気軽に聞けるようになります。そうして、地域に開かれた学校教育をより意識し、両者がつながることにつながるのだと谷川さんは考えています。 


谷川さん:中々学校の先生は外に行く時間がないので、こういうことが出来るのは学生かなと、使命感を持って、学生のうちにいろいろやりたいと思っています。 


学校を楽しいものにするという夢をかなえるため、谷川さんは学生の今だからこそできることを真剣に考え、目下ひっそりとその計画を進めています。 

さらに谷川さんは、このプロジェクトが完成した際には、どの教科においても周りの人達を巻き込んだ学びが実現できると期待しています。 


谷川さん:全部の教科は、周りのプロフェッショナルの人達、例えば国語科だったら小説家を呼んだり、その道の人を巻き込もうと思えば巻き込める形になっているんですよ。だからそういうことをどんどんやって、前例がないという言い訳をさせないように企んでいる所です。YouTube等で発信をしていく予定なので、もし出来上がったらご報告します 


グラフィックレコーディングとラジオという新しい発信の形を通して、地域と学校の隔たりをなくし、周りの人達をも巻き込んだ学びを可能にする谷川さんのプロジェクトの完成を、私達も楽しみに感じました。 

インタビューをして 

初めてグラフィックレコーディングの技術を用いたグラフィックシラバスに触れ、その分かりやすさ、内容の伝わりやすさに目を見張りました。私達の中に、聾学校でのボランティアを経験したことがある人もおり、文字を中心とした情報と、文字と絵を組み合わせた情報では、一目見ただけで伝わる内容に大きな差があることに気が付きました。 

また、学校教育が地域と分離している課題に対しても、絵と文字の組み合わせによって、新たなつながりを作れることに驚きました。文字だけでは伝わらないことを、学校現場で忙しい先生達にも、その場の様子が伝わるよう、絵を使って伝える方法はすごく画期的だと思いました。周りの人達を巻き込んで、様々なつながりを作り出す活動に、学校教育だけに留まらない、グラフィックレコーディングの可能性に気づくことが出来ました。