日本教育方法学会 第60回大会で発表しました

南浦涼介・小栁亜季・伊藤晃一「JSLカリキュラムの教育方法学的再検討―外国につながる子どもの『教科の理解』『学習言語』言説の転換にむけて」

日本教育方法学会(北海道大学)、2日目の自由研究発表で「JSLカリキュラムの教育方法学的再検討―外国につながる子どもの『教科の理解』『学習言語』言説の転換にむけて」を千里金蘭大学の小栁亜季さんと佐倉南高校定時制の伊藤晃一さんと発表しました。

発表の構成と内容の要点

今後論文投稿を進めていくのでここでは全文公開をすることは一旦留保しますが,発表の目次は以下のようになっています。

  1. 発表の目的と方法
  2. 研究の前提となる視点
    • Content Based Instructionとその普及
    • カミンズの「学習言語能力」とその普及
    • 機能言語学的な言語の捉えと学習
  3. JSLカリキュラムの特徴とその検討(分析1)
    • JSLカリキュラムの目的―「学ぶ力」の獲得と日本語習得の統合
    • 「学ぶ力」と「日本語の習得」を結ぶ方法―AU概念と学習展開
    • JSLカリキュラムの背景
    • JSLカリキュラムの特質とその論点
  4. 「JSLカリキュラムにもとづく」教科と日本語の統合学習の実際(分析2)
    • 小学校での「日本語と社会科の統合学習」の授業の概要
    • 計画された授業と実際の差異
      • 計画された授業の概要
      • 実際の授業での展開
      • 計画時と実際の言葉に関する取り扱いの違い
    • 教員のもつことばと思考をめぐる子どもたちへの目線
      • 授業時における子どもたちの言葉への視点
      • 子どもたちの学力についての捉え方
      • 通常の授業における子どもの苦しさについての視点
    • 授業をめぐる子どもの学びと言葉の捉えの葛藤点
  5. 論点と示唆

大きくみると,日本教育方法学会の参加者を想定したこともあって丁寧に理論的観点としての「内容と教科の統合(Content Based Instruction)」を説明し,その上でカミンズの「学習言語能力」にまつわる理論的展開と普及的展開,それと選択体系機能言語学の視点を補助線にする。その上で,「JSLカリキュラム」という文部科学省委託事業によってつくられた外国人児童生徒向けの教科学習の授業・カリキュラムツールの系譜的分析をするのが1つ。

ここで,JSLカリキュラムのもつ特徴とその意図を丁寧に紐解いたあとに,教育方法学・カリキュラム学の視点を折り重ねながら課題点を述べる。

もう1つが実際に普及し活用されている学校現場の「JSLカリキュラムにもとづいている」とされた実際の授業に視点を置き,その計画時と実際における「ことば」の取り扱いの違いに焦点をおき,その「違い」が教師のどのような目線から生まれているのかを明らかにする分析。

そしてこの分析をふまえて,教師の実践的専門性からくる「ことば」への視座をふまえながら,そこにある言語の選択性の点から改めて,JSLカリキュラムが背景に持っていたAUとAUカードの接続の発想,さらには普及している「授業とは学習言語能力を伸ばすもの」という言説それ自体への疑義を提起するという内容でした。

ふりかえり

膨大なレジュメだったのだけど、これが最低限でした。これまでの30年近くの積み上げの先達と、その上に乗って仕事をしている数多の人たちに対峙して、教育のペダゴジーの学からひっくり返そうとするのは、かなり緻密に気を使いながらです。お気軽に「これまで」に対抗することはとっても難しく。(最後の伊藤さんにしわ寄せがいってしまったのに、見事なまとめだった)

思えば「JSLカリキュラム」は大学院M1のときに指導教員の小原友行先生の前でゼミで発表し、「これはカリキュラムなの??」から始まった。あのあと外国人児童生徒教育の文脈からむしろJSLカリキュラムに乗る形で研究も仕事もしてきたけれど、20年でようやくあのときの小原先生の違和感に応じてお返ししたように思う。

一周回って旗色鮮明にしたけれど、この手のことに携わる心強い仲間や後進も多少なりともいて、そして自由研究発表にしては珍しい少なくない数の人が聴きにきて、質疑も議論も終わってからも絶えず、ありがたいものでした。

学問的な立ち位置を明確にする仕事というのは、なかなかに体力を削る。今日は午前中で力を使い果たしたのか、あとは抜け殻みたいだった。

さて,自分としてはそれではどのような授業づくり論を生むのか,それを改めて考えていきたいと思います。

学会では広大と学芸の院生(かつての学部ゼミ生)も学会に参加していて、いろいろなところで質問していた。心強い限り。