言語文化教育研究学会で共同研究発表をしました

2025年3月6日に,言語文化教育研究学会第11回年次研究大会で,ポスター発表を行ないました。(発表者:南浦涼介,細野花莉,大岡慎治,小國晴香,山本亮介) 

2024年度2タームの大学院授業をもとに,受講生だった中の有志の院生でそれらを改めてまとめ直し,発表したものです。

大学院の授業を改めて有志で掘り下げ,まとめていく作業自体が研究のトレーニングにもなり,また外にそれを開いていき,業績にもしていくという循環的大学院教育として行なっています。

今回の発表は,「外国人児童生徒教育」として増えているさまざまな教師研修のレビューの批判的検討,およびその代替案としての海外の実践(含・教師教育実践)の分析を行い,それをふまえた大学院生の学びの視点を検討しています。

1.発表の目的 

本発表の目的は,1)大学・学校・家庭・地域の場の共同を通して,外国人児童生徒の学力の形成,多言語・多文化的アイデンティティの承認,社会関係性の構築といった多元的な学びを一体的に保障し,その視点を教師・支援者教育としてどうしたら機能させていけるかを,LISELL-Bプロジェクトの分析を通して検討していく。2)そこから日本への再文脈化を考えるに対して教育系大学院生が何を得たかを捉えていく。 

2.外国人児童生徒教育に関する先行研究の課題 

外国人児童生徒教育の研修は近年国や自治体,学会を挙げて教員や支援者への研修が組まれるようになっている。これに関する先行研究を施策・理論と研修の関係方向性の軸線(国の施策にもとづくトップダウン―場の文脈から生み出すボトムアップ)と,教育の目的的方向性の軸線(教育的課題対応―教育的価値構築)で整理検討した。すると傾向として①「トップダウンによる課題対応」の研修が最も多く,②全体として教育課題対応として外国人児童生徒教育を捉える傾向があり,③ボトムアップによって教育価値を構築していく視点で外国人児童生徒教育を捉えるものはほぼ見られなかった。 

こうした傾向は,教育の目的方向性として外国人児童生徒を欠損的に捉えて対応をする視点が中心となり,また教師としても受動的な学びになりやすいという問題がある。 

3.LISELL-Bプロジェクトの概要 

こうした点をふまえて,本発表ではLISELL-B(Language-rich Inquiry Science with English Language Learners through Biotechnology)プロジェクトを分析する。アメリカのジョージア州の中学校および高等学校のラテン系の子どもたちに対して,中高の科学教科の教員とESOL(English for Speakers of Other Languages)教員、生徒とその家族を巻き込みながら科学的探究とそのための言語を学んでいくプロジェクト(Buxton, et al., 2017)である。 

プロジェクトは複数の教育目的的要素でつくられ,例えば「科学の言葉を持つ」「因果関係を説明する」「実験の要素をコントロールする」などである(Buxton, et al., 2017)。こうした目的から活動が生みだされ,さらに教師にとって学ぶべき専門性のフレームワークもつくられる。例えば教師が専門的に学ぶ場として,大学研究者とプロジェクト型実践と内容を協働的にデザインしていくことや(Buxton, et al, 2015),多言語家庭との連携による科学ワークショップを行って進学意識を高めていくことなど,多岐にわたる。 

4.外国人児童生徒の教育を専門とする/しない教育学系大学院生が得たこと 

 教育学・心理学・教科教育学系の大学院生という立場から,日本への再文脈化を,以下の点から議論した。①施策・学会・研究者も含めて欠損的な点から課題対応に拠ってしまう外国人児童生徒教育の研修の乗り越えが必要だという点。②研究者が関わる場からしかボトムアップのプロジェクトがしにくい問題をどう乗り越えるかという点。③に外国につながる子どもたちとそうでない子どもたちの教育の「共通面」を見すえる必要がある点。④機能言語的な面から言葉を捉えていくことが重要になる点。 

文献 

Buxton, C. A., Allexsaht-Snider, M., Rodríguez, Y. H ., Aghasaleh, R. Cardozo-Gaibisso, L.,  and Kirmaci, M. (2017). A Design-Based Model of Teacher Professional Learning in the LISELL-B Project. Oliveira, A. W. and Weinburgh, M. H.(Eds). Science Teacher Preparation in Content-Based Second Language Acquisition, (pp.215-234). Cham: Springer International Publishing. 

Buxton, C. Allexsaht-Snider, M., Kayumova, S., Aghasaleh, R., Choi, Y., & Cohen, A. (2015). Teacher agency and professional learning: Rethinking fidelity of implementation as multiplicities of enactment, Journal of Research in Science Teaching , 52 , 2015 , pp.489-502.