Frontiers in Education誌に、下記の論文が掲載されました。
Minamiura, R. (2026). Relational expertise at the policy–practice interface: shido shuji as non-school-based teacher educators for culturally linguistically diverse students, Frontiers in Education, 11, 1-13.
(政策と実践の接点における関係的専門性─外国につながる子どもたちの教育に関わる学校外教師教育者としての指導主事─)
以下は、日本語にした要旨です。
要旨
はじめに
外国につながる子どもたちの学びは、個々の教師だけで支えることはできない。そこには、システムレベルでの専門職学習、制度的な調整、そして政策と教室実践との間を媒介する働きが必要である。しかし、教師を支援する学校外の担い手が、こうした過程を媒介するために必要な専門性をどのように形成するのかについては、ほとんど明らかにされていない。この研究は、日本の指導主事を外国につながる子どもたちをめぐる教育において、政策と実践の接点で活動する、学校外の教師教育者として捉え直すものである。本研究では、指導主事の専門性を、自己の教職経験、他者の専門性を認識して動員すること、目的を調整すること、そして行政上に存在する諸概念を、教師の学習や学校の日常的実践に活用可能な形へと翻訳することからなる、関係的な専門性として捉えた。
方法
構成主義的グラウンデッド・セオリーを用い、基準に基づく目的的サンプリングによって選定した4名の市町村教育委員会の指導主事を対象に、2024年2月から2024年9月にかけて半構造化インタビューを実施した。対象者の選定にあたっては、自治体の規模および文化的・言語的に多様な児童生徒の集住度が異なるようにした。インタビュー記録は、逐語的な行ごとのコーディングおよび焦点化コーディング、継続的比較、メモ作成、図式化を通して分析した。
結果
指導主事の専門職的成長には、次のような段階的なプロセスが確認された。
第1段階は、着任1年目における葛藤と模索である。短期間の人事異動、不十分な引継ぎ、前年度に決定された予算などの制約により、指導主事は情報を一方向的に伝達する役割に限定されやすかった。
第2段階は、関係的資本を通した転機である。学校訪問による授業観察や、大学教員および経験豊富な教師との関係、自己の教職経験が、研修を行政的概念の伝達ではなく、具体的に翻訳された場として設計していく契機となっていた。
第3段階は、再分節化と創造である。進路指導や言語的アクセスの保障といった、指導主事が教師時代から有していた実践上の関心が、地域固有の仕組みへと再編されていた。具体的には、アドバイザー制度、研修の重点課題、受入れ時の情報把握やアセスメントの手続きなどとして再構成されていた。
第4段階は、同期化と確信である。着任2年目以降、計画と予算の時期が一致するようになることで、教師教育者としての自己認識と実際の場づくりがつながりあい、確立されていった。
これらの段階の中核にあるのが、組織の境界を越えて発揮される関係的専門性である。一方で、短い在任期間、個人に依存した業務運営、時期的な制約といった制度上の脆弱性によって、この専門性の発揮は状況依存的なものともなっていた。また、こうした脆弱性は、文化的・言語的に多様な児童生徒に固有のペダゴジーや評価を中長期的に整備していくことを遅らせる可能性もあるだろう。
考察
コーチやメンター、学校と大学をつなぐ教師教育者、さらには境界対象や第三空間に関する国際的研究と照らし合わせることで、本研究は、指導主事を、単なる行政施策の伝達者ではなく、行政組織と学校現場の境界を越えて活動する教師教育者として位置づけるところに大きな特質がある。さらに、国の政策が地方自治体の教育行政を通して解釈・具体化され、学校現場へと接続されていく過程に注目することで、こうした多層的なガバナンスのあり方が、外国につながる子どもたちの学びを支える教師教育をどのように形づくっているのかを明らかにしている。

