外国人児童・生徒の教育 2024 archive

授業の全体像:どんな人が学ぶ? 何を学ぶ?

授業の目的
  • 教育学部1年生の前期の授業。「外国人児童生徒教育」そのものの理解とともに,「外国人児童生徒のことを〈通して〉,子どもの理解のありかた,授業のありかた,学校づくりのありかた,地域連携のありかた,教師の成長のありかたといった教育の全体像を摑んでいく」ということ。
  • 「学校カリキュラム」の視点から外国につながる子どもたちの教育を見とおす目を持つこと。

  1. 教育学部1年生の前期の授業ということもあり,「外国人児童生徒教育」そのものの理解とともに,「外国人児童生徒のことを〈通して〉,子どもの理解のありかた,授業のありかた,学校づくりのありかた,地域連携のありかた,教師の成長のありかたといった教育の全体像を摑んでいく」ということ。
  2. ユニット1 現状と課題を知る:「外国人に対する語学教育」ではないということ
  3. ユニット2 外国人児童生徒もいる学校・教室の場で子どもたちを育てる方法を知る:カリキュラムと方法
  4. ユニット3 4つのアプローチを使って,学校の取り組みを分析する
  5. この授業の学び手の学生の多くは,広島大学 教育学部第一類(初等教育教員養成課程)の1年生たちです(授業には実際には他学科の学生や院生も入っています)。2024年は約80人のクラスです。

これまでの多くの「外国人児童生徒教育」に関する大学の授業は,日本語教育を基盤にした日本語指導・支援の視点から見たものであったり,また教育社会学的な視点から子どもと家族や社会をめぐる関係性の点から論じるものが多くありました。

もちろんこれらは重要な視点ですが,一方で「学校全体で人を育てていく」という視点からのものが少なく,「公教育としての学校」の特性と機能の観点から,「支援論」「社会論」ではなく「カリキュラムとペダゴジー」の観点から検討できるようにしていくことを目指しています。

ユニット1 現状と課題を知る:「外国人に対する語学教育」ではないということ

第1回-第3回 呼称から考える,概要を知る,受入れ方法を知る,子どもたちをめぐる社会的背景を知る

授業後のTAさんの通信(TAさんの授業後に発行するまとめ通信を許可を得て掲載しています)

授業の中では,まず,子どもたちのことを知るということで,下記の観点から3回にわたって考えていきました。

  • 呼称と観点:外国につながる子どもたちについて話すとき,なぜこんなにもたくさんの呼称があるのか?
  • 背景と家庭,言葉:どうして「日本語指導が必要な子ども」の母語に「日本語」があるのか?
  • 統計と進学:小学校・中学校に比べてどうして高等学校では外国につながる子どもたちの数が少ないのか?
  • 成長と言語の選択:国境を移動する子どもたちが成長していく中でどのように言語を得ていくのか。また,母語が必ずしもできるわけではないのはなぜなのか?
  • 成長とアイデンティティ:自分は○○人だという感覚は何で決まるのか? そもそも「日本人」であるという定義は何だろうか?
  • 受入れの方法:外国人児童生徒を受け入れる学校にはどのような仕事があるのか? それは誰が行うべきか?

ユニット2 外国人児童生徒もいる学校・教室の場で子どもたちを育てる方法を知る:カリキュラムと方法としての4つのアプローチ

1)日本語アプローチ(第4回~第7回)

カリキュラムとして捉えていくときのアプローチの1つめは,「日本語アプローチ」(日本語指導的アプローチ)です。ここでは取り出し教室における日本語の授業と留意すべき観点をいくつか見ていくと同時に,そこでの教師の授業構成のくふうや言語面などへの配慮の観点を抽出していきます。また,在籍学級でも使える点を受講生は考えていきます。

授業では,教科と日本語とを統合した授業の様子を見ながら,そこにある教師の手立てや考え方についての整理を学生たちが分析をしていきます(第4回)。第5回は,どうしてそうした学習が必要なのかということを,言語の習得の視点から考えていきます。ただし,いわゆる「学習言語」ということに焦点を当てることに終始するのではなく,「そもそも教科の授業とはどういうこと?」という視点から,生活的な言葉の世界から少しずつアカデミックな言葉を獲得していく意味を考えていきます。

第6回は,そうしたことをふまえながら,もう少し日本語を学びはじめたばかりの子どもたちの学習に焦点を当てます。
しかしここでも,これまでの学習と同様に先生と子ども,あるいは子どもたちの間での「やりとり」の中で子どもたちはことばの学びをしていくというところが見えてきます。なんとなく思っていた「外国語っぽい授業」ではないのだということを学生たちは学んでいきます。

第7回目の授業は,「日本語の構造」を考えるということで,初等教育を中心とする学生たちがあまりふれることのない「文型」という概念を探っていきました。

『みんなの日本語』(初級1)の文型をバラバラにして「目次順に正しく並び替えよ!」の活動
英語の学習の記憶を思い出しながら「文法には学習しやすい構造がある」ことを学んでいきます
(文型シラバスのように教えようという意味ではありません。教師の知識的引き出しとして)

2)バイリンガル・アプローチ(多言語多文化アプローチ)(第8回~第9回)

第8回から第9回は,バイリンガル・アプローチ(多言語多文化アプローチ)です。

そもそも子どもたちが持っている言葉は「日本語が弱い」と捉えられがちですが,たくさんの母語も含めた言葉を持っていること,またそれをどちらも駆使して参加していくことの大切さと価値を考える時間です。

この時間は,2つの実践記録(岡崎眸「『子どもの実質的な授業参加』を実現する年少者日本語教育」『社会言語科学』13-1, pp.19-34, 2010年 と ガルシアほか(2024)『トランスランゲージング・クラスルーム』の第10章の事例)を比べながら考えていきました。

双方は,厳密には「バイリンガル」の捉え方が違うのですが,いずれも「母語と第二言語」を関連づけながら学んでいること,それによって生まれる「日本語アプローチ」ではなかなか実現しにくい価値を生みだしていることを学んでいきました。

ただ,こうした発想は,「わかる」「魅力的」だけれど,1年生の学生たちにとってはとても難しい!

実際の学校で本当に実現できるのだろうか……ということが表れてくるようにもなり,ここをどう考えていくかが,最後の後半の,みんなの重要なトピックとなっていきました。

授業後のTAさんの通信(TAさんの授業後に発行するまとめ通信を許可を得て掲載しています)

3)学校全体アプローチ(第10回・第11回)

第10回と第12回は,「学校全体で育てていく」ということと「インクルーシブ」とはどういうことか――を考えていきました。

10回目は広島県のある小学校であった学校改革の事例をもとに,そこでどのようにして「みんなで育てていく」「子どもたちの違いを「あたりまえ」のものとして認めていくようになったのかを考えていきました。

さらに,そこにある「変化を生みだすための仕掛け」の重要性を捉えていきました。

11回目は,外国人児童生徒教育をめぐって,子どもたちをどのように捉えるのかを改めて考え,その根底にある「できない子ども」の目線のリスクから,本来の「インクルーシブ」とはどういうことなのかを,「個を大切にする」ということの2つの意味(個別化と個性化)の視点をえていく時間。

4)学校外連携アプローチ(第12回)

12回目は,「学校外連携アプローチ」ということで,学校の外側にある教育の場と連携し,活用していくことの大切さを考える時間です。2つの異なる団体に来てもらいました。1つは「地域密着型」の東広島市内で活躍される「にほんごひろばU-18」の方,もう一方は「広域連携型」で活動をされるNPO法人カタリバの方です。

お二人の話をもとにしながら,「学校だけが学びの場ではないこと」や「学校内だけの資源で完結させなくてもよいこと」を学生たちは理解。

実は,少し上の学校全体アプローチを終えた頃,私は学生たちに「難しいアプローチだと思うのはどれ?」と問い,手を挙げさせ,さらに「なぜ?」と聞いてしまいました。9割近くが「日本語アプローチ」はできそうだけど「バイリンガルアプローチ」「学校全体アプローチ」は難しいとのこと。しかも、そこに僕が「なぜそう思うのか」と理由説明をさせたことで却って「難しい」ということの意味を言語化させたことで,そのイメージだけがクラスの中に固着してしまっていました。

──なんとなく80人全体の空気が,「社会全体を変えるなんてできるわけない。一介の教員だし。学校のやらなきゃ行けないことの中でしかできないよね」と希望もへったくれもない感じになってしまい…

どうしよう……と次の授業まで悩んでいたのだけれど,朝起きたときにふと,「難しそう」なものにばかり手を挙げさせたけれど,「魅力的なのはどれ?」を聞いていなかったことに気づきました。で,昨日の授業では改めて「難しそうなのはどれ?」をフォームのアンケートで応えさせ,同時に「(難しいかどうかはさておき)魅力的だなと思うのはどれ?」もアンケートで聞きました(手を挙げさせると少数派が挙げにくい)。

すると見事にそこには「差」が!(画像参照)

「できそうだなあ(逆に難しそうだなあ)はどれ?」と「魅力的だなあと思うのはどれ?」のギャップにある希望としての「魅力的なのだけれども難しい」のゾーン。このゾーンが可視化されると人は,「じゃあどうすればいい?」を考えたくなる。最初から「魅力的なのはどれ?」を聞いておけば良かったのかもしれません。

でも最初に全体で「難しいはどれ?」で聞いていたからこそ「固着した困難さ」からの回復を全体でつくり,1年生中心の受講生全体でそれを共有できたような気がします。そしてそこに,今回ゲストで来てもらった東広島市のU-18さんと,カタリバさんの素敵な学校外における取り組みという具体が重なったようでした。

授業後のTAさんの通信(TAさんの授業後に発行するまとめ通信を許可を得て掲載しています)

ユニット3 4つのアプローチを使って,学校の取り組みを分析する

1)学校のドキュメンタリーの中のカリキュラム分析(第13回)

最後のユニットは,これまでの学んだことをフルに活かしながら,事例を分析していく時間です。まず13回目は,東京都の小学校に長期的に入ったドキュメンタリー(2005年のNNNドキュメント05 未来の小学校)をもとにして,そこで行われたさまざまな取り組みが4つのアプローチとしてどのような組み合わさり方をしていたのを分析しました。

2)少数散在地域の学校のカリキュラム分析(第14回)

第14回目はこれまでどちらかというと,「集住地域」の事例が多かったところを,「外国につながる子どもたちの数が多いわけではない」「地域としても外国人は多くない」地域で,これまで指導の蓄積があったわけでもない場でどのようにしていくかを考えます。事例として取りあげた散在地域の中学校の事例2つをとりあげ,経験のない中で学校がどのようにして高校進学まで子どもを結びつけていったかを,見ていきます。その上で,それらを4つのアプローチの視点で分析していきました。

こうして,4つのアプローチの視点が事例の中でどのように組み合わさっているのかを捉えます。こうすることで,学生たちがこれまで学んできた視点が単なる「授業の方法」「支援の理論」ではなく,学校づくり,カリキュラムのありかたとして捉えていく目線を,耕していきました。

多くの受講生がまだ1年生ですが,最初の「教育を捉える」目線として,多様性や学校カリキュラム,授業,インクルーシブ……教育を考える大切な視点を「外国人児童生徒の教育」から学んでもらえたらと思います。また,それが少しでも今後の教職の仕事になどにつながっていく中で,たくさんの子どもたちを包摂する目線につながっていくといいなと思います。

授業後のTAさんの通信(TAさんの授業後に発行するまとめ通信を許可を得て掲載しています)