2024年度の研修では,いくつかの場所で「考える力」に焦点をおいた多文化・多言語の子どもたち(外国人児童生徒)の教育研修をおこないました。
2003・2007年に「JSLカリキュラム」が出ましたが,当時の学習指導要領では前面に出ていなかった「思考」の面をどう前に出していくかと言うことを念頭におきながら,指導主事さんと一緒に相談をしつつ,案を作っていきました。
本研修のねらい
この研修では,大きく以下の点の力量形成をねらっています。
- 近年の学力観と言語教育観の動向を理解し,その点から「考えること」「ことばにすること」による学びの重要性に気付ける
- 「考える活動」と「知識」と「言語活動」の関係を改訂版タキソノミーから捉え,実際に考えることが出来る
- 「考える活動」を重視することによって「ことば」の学びの意味を改めて考えなおすことができる
「考える」ということを大切にすることは誰もがうなずくことなのですが,一方で,学校の授業はそうした「考える」ということが「教科」と結びつき,また「教材」とも結びついているため,とくに日本語指導の場では「この子たちはまだ難しい」「こんな難しいことはできない」という指導者・支援者の感覚もうまれやすい状況があります。
ステップ1 自分たちでやってみる
この点をクリアするために,この研修ではまず,受講者のみなさんに実際に「南浦が考えた授業を学び手としていっしょに受ける」という所からはじめることにしました。
ただし実はいくつかの「しかけ」も入れています。「『ここは難しいよ~』も描きながらツッコミながら見てくださいね!」と声かけをしながらはじめます。
まずは,A~Eのカードを見せるのですが,どうも時系列がおかしい。「正しい順番を考えてみよう」を隣の人とやってもらいます。

それぞれで「正しい順番」に並べ直してもらいながら,「なぜその順番か」を考えてもらいます。みなさん,いろいろな根拠を出してくれます。前に出てもらったペアの人の考えをいっしょに整理していきます。
正しい順番に並びかえることをしているため,自然に文章のいろいろなところに目を向けます。

正しい順番はこれですよ~,を示した後,「あなたならどんな提案をしますか」ということを考えてもらいながら,「どんな力がみにつく活動だったか」「もっとこういうくふうがあったらいい」も考えます。
米作りを文化的に知らない子どもたちもいるからなあ…という声も出てきます。大事なことです。似たようなテーマに変えるとどうかな,なども話されていました。
実はこのタスク,元ネタがあります。元ネタは「全国学力・学習状況調査」の問題(令和5年度・小学校国語)なのです。それをリライトして「授業活動化」しているものなのですが,ここではまだみなさんに開示しません。
ステップ2 学校で目ざされている「力」の整理
ここから,ステップ2です。ステップ2では,まず「考える」という力が,現代社会でなぜ重要になってきたのか,また言語教育でなぜ重視されるのかを理論的にとらえていきました。
その後「でもそもそも『考える』はどういうことをするのが『考える』なのか?」という,考えることの意味と具体を全員で整理していきました。
下の表にあるように,アンダーソンの「改訂版タキソノミー」 にヒントを得て,「考える」という行為を具体的な行動や活動の動詞形で捉えていくことを示しながら整理。
日本語指導でもよくブルーム(あるいはアンダーソン)の「タキソノミー」の話は出ることが多いのですが,多くは下の①~⑥の思考の6分類の話です。でもむしろ重要なのは,アンダーソンが重視していた「動詞」で捉えることであり,つまり各思考を考えたときの「具体的な行為の動詞」自体が重要だと思います。なぜならこれが「思考を促すタスク活動」を生み出す契機になるからです。

「具体的な行動や活動の例」にあるように,具体化すると「ああ,考えるってこういう行動と紐づくんだな」ということがよくわかります。(なお,下のように自分の子どもの自主学習の整理にも使えます笑)
ステップ3 「面ファスナー」の説明文を活動化しよう。
さて,こうしたことをふまえて今度は自分たちで説明文を活動化してみようということに。今度は「面ファスナー」という説明文をもとにして,これを「組み替える」ということを行なっていきます。



(実際には手元にカード化したAーEを使って作業します)やっぱり,スライドだけではなく,実際に組み替える作業をしながら考えて行くと,ことばも対話も生まれやすいのはおとなも同じです!
こうしてアイデアを共有していった後,最後に,「さて,この今日の授業で扱った説明文,元ネタはなんでしょう?」ということで,全国学力調査問題を見せます。(「全国学力・学習状況調査」の問題(令和5年度・小学校国語)実は面ファスナーも同じです)


もちろん,ここでは学力調査問題だからいいということでも,学力調査自体を良しとする話でもありません。
ここでは,「難易度の高い」「難しそう」と思われがちで,往々にして「うちの子どもには無理」とされがちなこうしたテスト問題にある内容を,知らず知らずのうちに子どもたちにちゃんと向き合い,くふうをしようとしてきたところをみつめてほしいことにあります。
「ね,考えてきたことは,決してつまずく子どもの支えだけの話じゃなくて,今やったような力は,全国・世界に通じる話だったんですよ」というメッセージ自体が重要なのだと思います。案外,「教科と日本語」のような世界観から忘れられがちな視点なのかも,しれません。先生方のハッとした顔と,笑みが,とても印象的でした。