大学院生とのゼミで、こんな話になりました。実証・経験的研究に比べると、教育(方法)学関連の領域では「規範的研究」が相対的に多いのだけど、一方でわかりにくくて、どうやって研究すればいいか見えにくいよね、ということです。
教育研究における記述・経験的研究と規範的研究
たしかに、この教育(方法)学研究1*(以下、ひとまず「教育学研究」としておきます)における規範研究の方法論は、案外明文化されていないことが少なくありません。いわゆる「質的研究の方法」「量的研究の方法」といった形で共有される枠組みに比べると、圧倒的に暗黙知として扱われがちです。
そのため、門外漢や初学者にとっては分かりにくく、規範研究を得意とする研究室や講座に所属して、先輩や教員から口伝的に学ぶしかない——そんな状況も起きやすいように思います。
もちろん、規範研究にも「方法」はあります。ただしここでは、ぼくが経験則として得たことですので、したがって、どの領域にもそのまま通用する一般則だとまでは言えない点は、あらかじめお断りしておきます。
規範研究で大切な「問いの設定」
ざっくり言えば、教育学研究の規範研究において最も重要なのは「問いの設定」にありそうです。
実証的研究では、研究課題の立て方として「ギャップスポッティング」2が(善し悪しは別として)よく語られます。たとえば、「○○というテーマは小学校段階ではよく検討されているが、中学校段階では検討が薄い」といった形で、先行研究の“穴”を見つけて埋めていくタイプの設定です。
ところが、教育学研究、とりわけ規範研究では、こうしたギャップスポッティングはそれほど中心には見えません。むしろ規範研究の特徴は、「問いの立て方」それ自体にあります。
端的に言えば、規範研究の問いは「前提になっている教育的価値をひっくり返す問い」になりやすい、ということです。
「従来、教育の○○という点については△△が大事だと言われてきた。しかし、そうではなく××なのではないか」——このように、前提を揺さぶり、問い直すところから研究が始まります。
ぼく自身、指導教員からよく次のように言われていました。
- 「〈良い〉と言われていることを、〈実は良くないのでは〉と言えること」
- 「〈良くない〉と言われているものを、〈実は良いのだ〉と言えること」
当時は「なるほど、そういうものか」くらいの理解でしたが、いま振り返ると、まさにこれは前提のひっくり返しにほかなりません。
さらに言えば、こうした発想は教員養成の場でも重要だと言われます。教員養成の場では、先輩の先生がよく「1年生の早い段階で教育観をひっくり返すことが大事だ」と語っていました。つまり,「教育」という,多様な角度から価値を検討でき、探ることができる領域では、「ギャップを埋めて世界を整える」だけではなく、むしろそれ以上に従来の世界を揺さぶり、新たな価値をつくり出すことが、実践でも研究でも重要だからなのだと思います。
「ひっくり返し」を論証するためにデータがいる
ただし、問いをひっくり返すだけでは研究になりません。
その「ひっくり返し」に根拠を与え、論証するために、やはりデータが必要になります。
データといっても、数値データや質的インタビューに限りません。過去の実践記録、授業資料、政策文書、理論的言説、歴史的資料など、規範研究においては多様なものがデータになりえます。
それらを解釈し、論証し、最後に
- 「この観点から言えば、教育現場(実践)において、こうした捉え方や可能性を見いだせるのではないか」
という形で教育的含意を示す。
この流れを整理すれば、次のようになります。すなわち「前提を問題視する問い→ 資料・テクスト・データの選定→ 解釈と論証→ 教育的含意」という形です。
IMRADという形式は同じでも、重心が違っている
もちろん、この流れは実証的研究にも応用できます。その意味では、社会科学としての形式はIMRAD(序論→方法→結果→考察)の構成に則ることができます。
ただ、実証研究の典型的パターンと比べると、規範研究的な側面を加味すると次の点が目立ちそうです。
- 序論が「問いの再定義(前提の問い直し)」になりやすく、やや長くなる
- 方法は(とくにデータ選定の基準などが)手続きとして明文化されにくく、むしろ論証の手順として述べられることが多い
- 考察は再定義された視点に到達する意義を丁寧に述べるため、やや長くなり、教育的含意も入る
ああ,たしかにぼく自身は,実証的研究でもこの傾向がある…
「問いのひっくり返し」は実証研究にも本来効果的
最後に付け加えると、「問いのひっくり返し」という発想は、規範研究に限ったものではありません。ギャップスポッティングがときに「つまらなさ」を生むのだとすれば、前提を揺さぶる問いは、少なくとも教育研究において実証研究でも十分に使えますし、問いとして強力です。
この問いの立て方が身につくと、応用範囲も広がります。たとえば学会発表でも、議論の焦点をずらしたり、思考の前提を問い直したりする質問が自然に出せるようになります。
ゼミで話題になったことを忘れないようにメモメモ (._.)φ
- カリキュラム・授業・評価などのペダゴジーの学という意味なので,教科教育学も含まれます。ただ,教科によってけっこう色合いが違うので,ぼくが育った社会科教育を念頭において「教科教育学」にしています ↩︎
- 例えば,アルヴェッソン, M., サンドバーグ, J., 佐藤郁哉(訳)『面白くて刺激的な論文のためのリサーチ・クエスチョンの作り方と育て方―論文刊行ゲームを超えて』白桃書房, 2023 ↩︎

