在籍学級でできる教師のインクルーシブ

※資料は一番下にあります

2023年7月27日は,広島市中学校教育研究会外国人及び学び直し生徒等支援教育部会という場所での研修でした。とっても多様な先生方の集まる場所での研修でした。

日本語指導と夜間中学と昼間の中学校の先生が集まるという,教員の多様性のある貴重な場での多様な言語と文化のインクルーシブな教育の研修でした。
(夜間部を持つ中学校の先生方がお互いを「昼の先生」「夜の先生」と言ったりしているのが印象的でした。たしかに「普通の学級」「夜間学級」という言い方は「何を持って一般か」という点で変な感じだし,ちょっと面白くなる言い方であることも含めて興味深い言い方だなと思った)

東京にいたときは「日本語指導者研修」ということで,日本語指導をされている先生方のみが対象の研修が多かったのですが,こうした場所,色々な先生がいらっしゃることをせっかくなのであたらしい内容の研修をということもあって,それでテーマが「昼間の中学校の言語と文化の多様な在籍学級でどう包摂した授業・カリキュラムマネジメントをするか」になりました。これ,実は結構珍しい研修です。

実際の研修の流れ

いつもの授業を想像する→日本語を学ぶ子どもだけがいるクラスでどうしているかを考える→在籍学級の中でできることできないことを考える

実際の研修資料は,ここに上げているとおりだけれども,大きな流れとしては,

  • 「いつものふつうの『かっこつけない』授業」として,数学と社会の授業を教科書をみながらペアで作ってもらう(本当はいろいろな教科の先生がいらっしゃるのだけれど,バラバラですると話し合いができないので,対照的な教科と言うことで「数学」「社会」になった)。
    慣れない教科を互いに作るということもあるので,ここが一番大変なことなのだけれど,あーだこーだと話しながら「昼間の,日本人しかいないクラスだったらこんな感じかねえ」をつくってもらう。
  • 「日本語を学ぶ子どもたちに対してのみのクラス(日本語取りだしや夜間学級)だったら,どういう配慮をするか」を考えて,話し合ってもらい,共有する。
    会場の多くを占める日本語指導に関わる人や夜間学級の経験や知見を出し合いながら,それを共有したり,そうした視点を必ずしも持っていない昼間の学級の先生と共有していきました。
  • その後,「2」で出てきた経験や知見をまとめながら,「それを『在籍学級』『昼間のクラス』の中でも適用できるかどうか?」を考えていってもらいました。

長期-短期,教室-全体の中で戦略を分けていく大切さ

もちろん出てきたものは確かに「いいもの」ではあるのですが,クラスの状況が異なる中で,「色々な子どもがいるからこそ,ここまで丁寧にはできない」というようなこともあります。その違いは何か,ということを考えながら,教室の違い,場の違いの中でできること,できないことを考えていきました。

そう,教室の中だけではなんとも解決ができない。だからこそ教室の中だけで全てを解決するのではなく,短期的長期的な目線をもつこと,教室だけでなく,学校全体で取り組むことなど,実はたくさんの取り組みの発想はあるはずで,そこを整理していきます。
(個人的には「D」のような企画的発想は結構重要だと思っています。往々にいして「あれは日常じゃないから」と言われることも多いですが,学校の中で「非日常なイベント」はそれはそれで意味のあることなので)


ことばと文化のインクルーシブをつくるってどういうこと?

こうしたことをふまえながら,最終的には,下のスライドのように「昼間のクラス。在籍学級の中で教えるということ」をまとめていきました。

私たちは,「対応する」ということをよく言いますが,実際この「対応」はいろいろな位相を持っています。「言語を対応する」ことから「目標を対応する」までじつに幅広いものがあります。また,「何のために対応するのか」ということを考えてみると,「個別化(違いを解消して同じようにしていく)」ためのものから,「個性化(違いを承認して重ねていく)」ためのものまであります。(ここはかなり複雑な内容を持っているので,論文などで改めて整理していきたいと思っています)

この位相を理解しながら,「何のための対応か」「どの範囲で対応するのか」を考えていくことができるといいなと思っています。それを,上のように「どの場で対応するか」と合わせて考えていけるようにならないかと思います。

後半はかなり専門的な話なのですが,3時間をかけて先生方と活動を一緒にやっていきながら,出てきたそれぞれのアイデアを共有して位置づけながら行っていくことで,後半の話も随分理解をしてくださったように思います。(ただし,最初の「見知らぬ教科の授業を考える」のはかなり苦しかったみたいで,ここは改善が必要だなと反省しています)


研修を振り返って

東京の時も時折高等学校の定時制に足を運ばせてもらっていたこともあるのだけれど,それとはまた異なる学校種ということもあり,研修に先立って実際に何度か夜間中学にも伺わせていただき,見学と合わせて,「ご迷惑かなあ」と思いながらも,先生たちと研修について打ち合わせを重ねさせていただきました。

僕自身、ここしばらくことばと文化のインクルーシブと言うことに対して,考えてきており,その幅や揺れについては,先日2023年7月の日本カリキュラム学会のシンポジウムでも触れたのですが,それをあらためて,「アコモデーション-モディフィケーション」の軸と「個別化-個性化」の軸を交差させて考えるとうまく説明がつくかもしれないことに思い当たりました。これは間違いなく,打ち合わせを経ていく中,また,夜間部の先生方のカリキュラム設計を見学させていただく中で具体化していったものです。感謝,感謝です。

上にも書いたように反省点も多々……なのですが,しかしこれまでおこなった研修の内容とは随分違うことに挑戦もさせていただきました。機会をいただきましたこと,心からお礼申し上げます。

資料の掲載を許可いただきましたので,上の資料全体はこちらで共有いたします。